Vol.17 2018年10月31日発行
子どもの領分
運動会を控えたある朝
「ぶらんこの三人乗り禁止について会議を開きたい」年長のフジくんが登園するなり私に駆け寄って言いました。
ぶらんこは、お父さんが桜の木の枝に渡した竹にロープをかけ、板につないで作ってくれたものです。
子ども達にとって、好きな遊びの三本の指にはいる、たったひとつのぶらんこです。
見学の方は、ぶらんこの周りに囲いがないことに驚かれます。けれど、私達にとっては、鉄の鎖や囲いの方が、かえって子どもの動きを制限し、怖くてハラハラしてしまいます。
ぶらんこは、これまで子ども達によって、様々な遊びとルールが編み出されてきました。
例えば、ひとりがぶらんこを漕いで、数名が前に立ちます。ぶらんこが前にふられると一斉に地べたに伏して、頭上をかすめるぶらんこをやり過ごし、ぶらんこが引くと立ちあがる。
ひとりがぶらんこに座り、友達がロープをぐるぐる巻きにして手を離すとスパイラルがほどけてグルグルと何十回転もする。
朝一番に登園すると貸し切りでぶらんこに乗れる。次に乗りたい子はうしろの切り株に乗って待つ。というように。
実はフジくん、この前日に、三人乗りをしてぶらんこから落ち、背中に擦り傷をこさえて、おうちの人と相談していたのでした。
「三人乗りはさすがに禁止した方がよいのではないか」と。
けれどもフジくんの本心としては微妙で、三人乗りは禁止したくない・・・むしろ三人乗りのぶらんこを造りたい。自分自身や家族を説得する理由を探しているように私には見えました。
それで子ども達と会議を開きました。「三人乗りはよくないと思う。」そう言ってフジくんは背中の傷を見せてくれました。
するとりっ君が「なんでフジはぶらんこから落ちたの?」
「・・・手を離したから」とフジ君
「手を離したら何人乗りでも落ちるよ」となお君
「三人乗りのせいじゃないじゃん」
りっくんの言葉にふじ君の顔は、ぱぁっと明るくなりました。
「でさ、落ちちゃうと思うなら乗らないことだよ」
こうしてぶらんこは4人乗りになりました。
めでたしめでたし