Vol.22 2022年2月22日発行

原風景を紡ぐ

Vol.22  2022年2月22日発行

 吉田に来てから走り続けて、季節も一巡しました。園舎は、椋神社のお膝元、東に吉田川が流れ、西に両神山、南に武甲山、北に城峰山と霊峰を仰ぎ、地主である竹内さんの先代のお父様が植えられた花木に包まれるように建っています。
 まず驚いたことは、子どもたちのおしるしの生き物がその子の誕生を祝うかのように次々姿を現してくれたことです。ルリボシカミキリ、ナナフシ、アオサギ、アオスジアゲハ、アキアカネ・・・
 そして楓が色づき始めた頃、芦田山に登った時のことです。間伐した山の急斜面を低い藪を掴んで登るけれど、なかなか平地に着かないので、自分は今どのあたりにいるのだろうと、腰をあげて振り返ると、まるで宙に浮いて青空に居るような感覚です。遥かに武甲山が鎮座し、眼下には大鳥居が、椋神社を教えてくれます。樹々の間にチラリと赤い屋根を見つけると、「ようちえんだ、ようちえんだ」と狂喜乱舞の子どもたちです。そして「海が見える」「九州のおばぁちゃんちが見える」「東京だ!」「新幹線が走ってる」子どもたちは自分の位置を確かめると、様々をこの高見から観たのです。
 そんな日常を支えてくだるこの地の宝は、保護者との共同体に加えて、地域の力を頂いたことです。日本はずっとそうやってきたのに若さで忌避し、個性や個人の権利が独り歩きし、面倒なしがらみとして、脇に置かれてきた地域や共同体というものの実相に幾度となく触れることができました。
 猛る自然と良い距離間で自然保育を実践していくために、物心両面において自然の規則に倣ったマンパワーにどれだけ助けていただいたことか。地域に受け継がれてきた思いや知恵、技術で、多くの方々が心を寄せてくださり、手を貸してくださったことに感謝します。
 日々変化する生きた情景、心象風景、多様な人の手と心で育まれた経験・・・眠りについた山並に抱かれて、ここは子どもが彩なす原風景を紡いでいく場所に成るとしみじみ感じて居ります。